老若男女問わず、「美しさ」には誰もが心を動かされますし、「美しい」は誰に対しても、何に対しても使われることのある、普遍的な誉め言葉です。これは今に限ったことではなく、芸術がいつの時代にもあったように、「美」は昔から重要視されてきました。
そのような「美」の原点が実は「羊」にある、と言ったら意外かもしれません。しかし実際のところ、ある意味ではそうなのです。
どういう意味で「美」の原点が「羊」なのか、以下、「羊」と「美」の関係についてご紹介します。
「美」という漢字の成り立ち
「美」という漢字の成り立ちについて、『角川新字源』では以下のように説明されています。
羊と、大(大きい)とから成り、神に供える羊が肥えて大きいことから、「うまい」「うつくしい」意を表す。
また、『漢字源』ではこのように書かれています。
体形がゆったりとしているヒツジを示す。この意匠によって、形が微妙で何とも言えずうつくしいことを表す。
やや説明は異なりますが、どちらも「美」は「羊」と「大」の組み合わさった漢字という点は共通しています。
実はこの「美=羊+大」という説は、西暦100年ごろに成立した中国最古の辞書、『説文解字』にまで遡ることができます。古代の中国においては、「美」を示す代表格となる存在が「大きな羊」だったのかもしれません。
また、甲骨文字の研究が進むにつれて、「美」は「羊」と「人」からなるのではないか、という説も登場してきています。古代の人達は羊の角をアクセサリーとして頭に着けていて、その着飾る様子から「美」という漢字が生まれたのではないか、といった説です※1。
いずれにしても、「美」の成り立ちは「羊」を抜きに語れないということは確かです。
羊は「美しいもの」「善いもの」のシンボル
羊は「美」以外にも様々な漢字の元になっています。「善」がその一つで、羊は善良・善意など「善いこと」を表すシンボルにもなっていました。
また幸福・幸運を意味する「吉祥」の「祥」にも「羊」が含まれています。先に紹介した『説文解字』にも「羊、祥也」とあり、「羊」と「祥」は同じだとされます。
つまり、羊は幸運を呼ぶ動物でもあった、ということなのでしょう。
験担ぎでよく「カツ丼を食べる」といったことがありますが、代わりに羊料理を食べるのもいいかもしれませんね。
※1 鄭 高咏「羊に関するイメージ-考察-中国のことばと文化」(『言語と文化』9号、愛知大学語学教育研究室、2003年)参照。