「羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹…」
眠れない時に羊を数えると良い、というのはよく知られた話ですが、それはどうしてなのでしょうか?「羊を数える」という習わしの由来について調べてみました。
英語のSheep(羊)がSleep(睡眠)と似ているから?
羊を数える由来についてよくある説明としては、以下のようなものがあります。
- 羊の英語名Sheepが睡眠Sleepと似ていて、睡眠を連想しやすいから
- 羊の牧歌的なイメージが安心感を与え睡眠に入りやすくするから
- 数えるという単純作業で脳が疲れて睡眠へと誘うから
特に英語圏では言葉遊びが盛んなので1つ目の説は有力そうに見えます。実際、イギリスなどの英語圏の国では寝る時に「羊を数える(counting sheep)」文化は古くから定着しています。
日本にはもともと羊がいなかったので、「羊を数える」という文化も英語圏から入ってきたと思われます。
本当の由来は英語圏でなくイスラム圏?
ところが、よくよく調べてみると「羊を数える」という文化の由来は英語圏ではないようです。
遡っていくと、スペインの作家セルバンテスが17世紀初頭に書いた作品『ドン・キホーテ』には「山羊を数える」という記述があります。
さらに、12世期の同じくスペインの作家であるペトルス・アルフォンシによる書物、『聖職者の訓練(Disciplina Clericalis)』の中には「羊を数える」という記述があり、セルバンテスはここからアレンジして羊を山羊に変えたものと考えられます。
アルフォンシの時代、スペインはイスラム教国家の支配下に置かれていました。そのため、東方のイスラム圏の文化に触れる機会も多かったといえます。『聖職者の訓練』はそのような環境に置かれたアルフォンシが、東方の逸話や物語をまとめた作品です。
また、アルフォンシはもともとユダヤ人でしたが、キリスト教に改宗し、以降はイギリスやフランスに渡って活動しています。
こうしたことから、アルフォンシが伝えた東方イスラム圏の文化がイギリスなどヨーロッパ圏に伝わり、その過程で「羊を数える」という習わしも定着していったものと考えられます。
別の視点でみると、羊を数える文化がそれほど多くの国や地域で受け入れられてきたともいえます。羊がいかに人々から愛されてきたかということが感じられますね。