羊毛なくして産業革命は語れない?イギリス近代と羊毛の歴史

イギリス近代と羊毛 ひつじ小話

羊というと思い浮かべる国はいくつかありますが、その中でも外せないのがイギリスです。イギリスでは古くから羊が飼育されており、ロムニー種やサフォーク種など、イギリス原産の羊の品種も多くあります。

そこで、今回はイギリスの近代の歴史と羊、特に羊毛との関わりについて紹介します。

フランドル地方の羊毛と百年戦争

少し近代よりさかのぼりますが、イギリスと羊毛を語る上では、フランドル地方をめぐる百年戦争のことは外せません。

フランドル地方(フランデル地域、現在のベルギーとフランス北部にまたがる地方)は古くから羊毛の産地で毛織物も生産されていました。

11世紀以降になると、イングランド産の羊毛を原料とするようになり、これが転機となって、ヨーロッパ随一の毛織物の生産地域として栄えました。

しかし、中世ヨーロッパではイスラムの国々から高価な毛織物を輸入せざるを得ない状況でした。その当時、世界で一番羊毛を織る技術が発達していたのはペルシアだったからです。

その状況を打破すべく、14世紀頃からはフランドル地方ではイスラム圏に織物産業で負けないよう機械織りの技術を向上させましたが、皮肉なことに、その栄えたフランドル地方をめぐってイギリスとフランスは争い、ヨーロッパ中に暗い影を残す百年戦争へと発展したのでした。

羊毛の毛織物がきっかけとなった産業革命

それから数百年後の18世紀中頃、疲弊した農耕社会だったイギリスは国内で独自の毛織物工業を発展させ、『ミュール紡績機』に代表されるようなシステム化された分業と工場制手工業(マニュファクチュア)を確立します。これが契機となり、新しい大量生産体制、新しい機械、動力革新などが生まれ、18世紀後半の産業革命へと繋がっていきました。

イギリス国内のコッツウォルズにある『ウール・チャーチ(裕福な羊毛商人が建てた立派な教会)』や『ヨークシャー大修道院』が建設できたことや、上院の大法官の座る席が『ウールサック(羊毛袋)』と呼ばれていることも、羊毛のおかげです。

羊から毛織物を作るという歴史があったからこそ、その後の木綿工業の産業革命でイギリスが自由貿易体制の頂点を極めることができたのだと言えるでしょう。

<参考>
・“100 INNOVATIONS OF THE INDUSTRIAL REVOLUTION From 1700 to 1860” Written by Simon Forty

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